地震学って面白い?

観測データが、私たちの「常識」を裏切るとき

地震は、よく分かっている現象だと思われがちです。しかし観測データを丁寧に追うと、地震は思っているよりずっと多様で、複雑で、ときに非規則的です。 ここでは、2つの“ミステリー”を図で追いながら、地震を研究する面白さに触れてもらえたらと思います。

第一章:73年後に再び起きたM9巨大地震の謎

第二章:破壊が遠ざかる方向で大振幅の謎

第一章:73年後に再び起きたM9巨大地震の謎

M9クラスの巨大地震は、数世紀にわたって蓄積された莫大なひずみを一度に解放するものだと考えられてきました。しかし2025年夏、カムチャツカ沖において、わずか73年という短期間で再びM9クラスの地震が発生したのです。

同じところ繰り返し破壊している?

1952年と2025年のすべり分布の比較
1952年と2025年のすべり分布。二つの巨大地震は、驚くほど似ていました。

観測データは「同じような巨大地震が繰り返した」ことを語っています。

では、なぜ73年という短い時間で巨大地震が繰り返したのでしょうか?

すべりが二度加速している?

大すべり域で、115秒付近と135秒付近に加速が見られます。これは3.11でも見つかっています。

奇妙な地震が起きている?

オーバーシュートの証拠
大すべり域で見つかった“戻るような”正断層型の地震(赤ビーチボール)は、オーバーシュート(すべりすぎ)が発生したことを示しています。
Finding

2025年の巨大地震では、オーバーシュート(すべりすぎ)が発生していました。

巨大地震が解放するひずみは、一定ではありません。 すべりが足りない場合もあれば、すべりすぎる場合もある。単純な周期モデルでは説明できない振る舞いが見えてきます。

(用語メモ)アンダーシュート:すべりが足りない/オーバーシュート:すべりすぎる

第二章:破壊が遠ざかる方向で大振幅の謎

ドップラー効果によって、音源が近づく方向では振幅が大きくなり、遠ざかる方向では振幅が小さくなります。

同じように、地震でも、破壊が近づく方向では地震動が大きくなり、遠ざかる方向では地震動が小さくなります。

2025年、ミャンマーで大きな地震が発生しました。

主破壊は南に伝播している?

余震分布は南側に分布
余震分布。星印の本震の震央から破壊は南へ進んだ、と見える。

余震分布やInSARのデータから、破壊は南側へ進んだように見えます。

破壊が南へ進んだなら、南側の揺れが大きくなるはずです。

ところが地震波形を見ると、この予想が覆されます。

波形を説明するには北に破壊伝播するしかない?

北側の振幅が大きい地震波形比較
地震波形の比較。北側の振幅が大きい。

全世界の観測波形を確認すると、北側の観測点の振幅が大きくなっていました。

ではなぜ、余震やInSARの結果と、観測される地震波形の特徴が一致しないのでしょうか?

逆破壊伝播が発生している?

破壊の時間発展
破壊領域の時間発展。破壊開始10秒後から南→北への超高速の逆伝播が発生している。
Finding

一旦南へ進んだ破壊が、超高速で北側へ“ブーメラン”のように逆伝播していったことが明らかになりました。

観測データが語る地震の姿は、私たちの「常識」よりもずっと複雑で、多様です。

最新の解析手法を手に、未解決の謎を解き明かし、世界を驚かせる。

この「知の冒険」こそが、筑波大学の地震学研究室SeLTsの面白さです。

地震を「適切に理解する」ことは、最終的に社会の防災・減災にもつながります。
私たちがどのようにしてこの「新しいレンズ」を手に入れたのか、その軌跡は開発ストーリーへ。

Yagi et al. (2025) . Breaking the Cycle: Short Recurrence and Overshoot of an M9-class Kamchatka Earthquake. Seismica, 4(2). doi:10.26443/seismica.v4i2.2012
Inoue, Yamaguchi, Yagi, et al. (2025). A multiple asymmetric bilateral rupture sequence derived from the peculiar tele-seismic P-waves of the 2025 Mandalay, Myanmar earthquake. Seismica, 4(1). doi:10.26443/seismica.v4i1.1691