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地球進化科学Webニュース Vol. 11

本専攻の池端助教が学会賞を受賞


岩石分野の池端 慶助教が、2013年6月26日−28日開催の2013年度資源地質学会において資源地質学会研究奨励賞を受賞しました。受賞対象研究、受賞研究内容は以下の通りです。


受賞対象研究
銅同位体比局所分析法の開発と資源地質学への応用

受賞研究内容
  試料に含まれる元素の安定同位体比は、その元素の起源や輸送過程、さらに試料が形成された物理化学的状態等、元素の濃度分析からは得ることのできない有益な情報を提供し得るものとして古くから注目されている。昨今の分析技術の進歩、特にプラズマイオン源に代表される高イオン化効率イオン源をもつ多重検出器型質量分析計(MC-ICP-MS)の普及にともない、これまでの分析機器では高精度の測定が困難であった銅、鉄、亜鉛、ニッケル、モリブデン、スズ等の、いわゆる"非伝統的"な重元素安定同位体比の高精度分析が2000年頃から世界的に行われ始めている(例:Johnson et al., 2004, Reviews in Mineralogy and Geochemistry)。
  これらの研究では、試料を粉末にし、酸分解して溶液をつくり、その溶液を質量分析器に導入して同位体比を分析している(溶液法)。しかし、鉱床鉱物は数種類の鉱物が密雑に共生する産状をとるため、溶液法では個々の鉱物の同位体比を正確に得ることは困難である。また、一つの鉱物であっても、二次的な作用を受けて同位体比が改変されている場合もあり、溶液分析では初生的な情報を正確に得ることができない。したがって適切な試料のみの高精度な同位体比分析(局所分析)が必要であることは以前から指摘されていた。
  しかし、銅は熱伝導性、電気伝導率が高いため、従来から珪酸塩鉱物の局所分析に使用されているパルス幅がナノ(=10-9)秒のレーザー(例:エキシマレーザー)を用いた分析法では、照射されたレーザー光エネルギーが試料の溶融に使用され、効率良く試料を粉砕して質量分析計に導入できなかった。池端助教は、最新のフェムト(=10-15)秒レーザー(チタンサファイアレーザー)とMC-ICP-MSを組み合わせて主要銅鉱物(自然銅、黄銅鉱、輝銅鉱、赤銅鉱)の銅同位体比を高精度で局所分析(径15μm)する手法(LA-MC-ICP-MS)を世界で初めて開発した(Ikehata et al., 2008, Journal of Analytical Atomic Spectrometry)。
  開発した局所分析法を駆使して、世界的に分析例のなかったマントルかんらん岩中の銅鉱物や、別子型鉱床産鉱石の銅同位体比を測定した。その結果は、高温のマグマ過程では銅同位体比に有意な分別は起きないが、低温での酸化還元反応過程では顕著な同位体分別が生じること、また広域変成作用時の再結晶化作用により初生銅同位体比の変動幅は減少することなど、銅鉱物の形成過程やその後の二次作用について有益な情報が得られることを明らかにした(Ikehata et al., 2011, Economic Geology; Ikehata and Hirata, 2012, Economic Geology)。また、現世の海底熱水鉱床鉱石中の銅同位体比に関する研究も行っており、同位体比を用いて銅の熱水循環履歴を追跡できる可能性を示した。
  池端助教の幅広い知識と分析技術は、資源地質学の発展に大いに貢献すると期待できるため、2013年6月26日に資源地質学会から研究奨励賞が授与された。