An in situ Raman study on katoite Ca3Al2(O4H4)3 at high pressure

加藤石の高圧ラマン分光分析

加藤正人,興野純


Journal of Mineralogical and Petrological Sciences, 114, 18-25, 2019

   【はじめに】 ザクロ石は上部マントルを構成する主要鉱物の一つであり,OH基と結合して水和物を形成し得ることから,「名目上の無水鉱物"Nominally Anhydrous Minerals (NAMs)"」と呼ばれる.OH基を構造内部に有するNAMsによって地球内部の岩石学的プロセスは大きく左右されている可能性が高いため,代表的なNAMsである含水ザクロ石への関心が近年高まっている.SiO4四面体内にH原子を取り込むことにより,灰礬ザクロ石[Ca3Al2(SiO4)3]と含水ザクロ石である加藤石[Ca3Al2(O4H4)3]は,(SiO4)4-が(O4H4)4-と置換することで完全固溶体を形成する.加藤石は,常圧下ではザクロ石構造であり立方晶系で対称心を有する空間群Ia-3dであるが,Lager et al. (2002)は,単結晶高圧X線回折法によって,加藤石が5 GP以上で立方晶系で対称心がないI-43dに構造相転移することを示した.しかし,粉末中性子回折の結果や(Lager et al 2005),第一原理計算の結果からは(Erba et al 2015),未だ議論の余地が存在する.NAMsの下部地殻・上部マントルにおける挙動を知るため,本研究では高圧ラマン分光法を用いて含水ザクロ石内部の分子振動を測定し,因子群解析によって加藤石の圧力誘起相転移について検証した.


【実験方法】試料はCaOとAlを出発物質とし,250℃,5日間の条件で水熱合成した.生成物は粉末X線回折法によって相同定を行い,加藤石であることを確認した.電子顕微鏡観察から,合成結晶はザクロ石の特徴的な結晶形を示し,自形の加藤石であることが確認された.高圧ラマン分光法では,圧力発生装置にダイヤモンドアンビルセル(DAC),圧力媒体にMet-Et-H2O,圧力決定にルビー蛍光法(Mao et al. 1986)を使用し,10GPaまで測定を行った.


【結果と考察】 圧力が1.3GPaのとき,格子振動による明瞭な2つのバンドが341と541 cm-1に, OH伸縮振動による単一のバンドが3649 cm-1に観察された.バンド位置とピーク形状は常温常圧条件の結果と良い一致を示した.格子振動の振動モードは,341 cm-1がA1gに帰属し,541 cm-1がA1g+EgとF2gに帰属する.一方,OH伸縮振動はA1g+EgとF2gに帰属している.圧力増加に伴って,格子振動の振動モードは正の圧力依存性(図1),OH伸縮振動は負の圧力依存性を示した(図2).OH伸縮振動の負の圧力依存性は,圧力によって四面体席が収縮し四面体内部にある水素結合距離が短くなり,結合力が強くなるためと考えられる.また,本研究ではこの傾向が5GPa付近からを急激に大きくなることを確認確認した(図3).このことは,5GPa付近で加藤石のH4O4四面体の収縮に変化が生じ,構造相転移が起きていることを示唆している.加藤石は,高圧単結晶XRDの結果から,5GPa以上で立方晶系の空間群Ia-3d (点群Oh)からからI-43d (点群Td)に構造相転移することが示されている(Lager et al. 2002).しかし,ラマン分光法に基づく因子群解析の結果からは,加藤石の高圧相の結晶構造は,Lager et al. (2002)が示した空間群I-43d以外に,空間群I4132(点群O)と空間群R-3c(点群D3d)の可能性も考えることができる.



●参考文献

Erba A. Navarrete-Lopez AM, Lacivita V, D'Arco P, Zicovich-Wilson CM (2015) Katoite under pressure: an ab initio investigation of its structural, elastic and vibrational properties sheds light on the phase transition. Phy Chem Chem Phys 17: 2660-2669

Lager GA, Downs RT, Origlieri M, Garoutte R (2002) High-pressure single-crystal X-ray diffraction study of katoite hydrogarnet: Evidence for a phase transition from Ia3d -> I-43d symmetry at 5 GPa. Am Mineral 87:642–647

Lager GA, Marshall WG, Liu ZX, Downs RT (2005) Re-examination of the hydrogarnet structure at high pressure using neutron powder diffraction and infrared spectroscopy. Am Mineral 90: 639-644




 

図1. 格子振動の圧力依存性



図2. OH伸縮振動の圧力依存性



図3. OH伸縮振動数の圧力変化
     
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