Structural change induced by dehydration in ikaite (CaCO3·6H2O)

Natsuki Tateno and Atsushi Kyono

Journal of Mineralogical and Petrological Sciences, 2014, 109, 157-168.


 イカ石(CaCO3・6H2O)の脱水に伴う結晶構造変化

舘野 夏紀, 興野 純

   【研究の紹介】
 海水はCO2を大量に溶かし込むことが出来るため,大気中のCO2濃度に大きな影響をつ.海水に溶けたCO2はHCO3-炭酸水素イオン状態を経て,無機的,有機的プロセスでCa2+イオンと結合し,CaCO3として固定される.天然で見られる炭酸カルシウム鉱物には,無水和物のcalcite,aragonite,vaterite,水和物のmonohydrocalcite,非晶質炭酸カルシウム(ACC),イカ石(ikaite)があり,これらは炭素循環の理解を深めるものとして関心が高い.更に,水和物は安定な炭酸塩鉱物の前駆物質であるという点について注目されているが,水和物は無水和物と比べ研究例が少ないのが現状である.
 CaCO3・6H2Oは実験室での合成物としては古くから知られていたが,天然での存在は1962年まで確認されていなかった.天然で初めてikaiteが発見されたのはグリーンランドのIkka fjord (イカ フィヨルド)の海底であり,この地名からその名が付けられた.Ikaiteは,日本の南海トラフ,ザイールの海底扇状地,アラスカ沿岸のエスチュアリなど世界中で確認されている.ikaiteは低温で安定であり,常温では急速にcalciteやvateriteへと変化する.従って天然では,「グレンドン石」や「チノライト」,日本では「玄能石」などと呼ばれる奇岩となって広く見られる.Ikaiteは,天然での長期的な安定性は極めて低いが,稀な例としてはtufaが挙げられる.
 天然におけるikaiteは無酸素環境において炭酸イオンとCaに富む溶液中で形成され,氷点付近で容易に晶出するが,温度が上昇すると急速に無水のCaCO3へと分解する.海性堆積物内とアルカリ溶液中とではikaiteの結晶化に必要な条件は異なり,前者では続成作用による有機物の分解に起因する大量のHCO3-イオンが,後者では湧水からの少量のCaが必須である.Ikaiteの結晶構造は単斜晶系,空間群C2/cに属し,a = 8.792,b = 8.310,c = 11.021 Å,β = 110.53 °である.その構造はCaCO3・6H2Oの分子ユニットから成る分子性結晶である.これまでの研究から,ikaiteは常温では数時間でゆっくりとcalciteやvateriteに相転移することが明らかになっている.
 本研究は,ikaiteからcalcite,vateriteに相転移するメカニズムをより詳細に明らかにするために,低温単結晶X線回折測定を行い,ikaiteの分解プロセスを解明することを目的として行った.本研究から,ikaiteの相転移は温度効果よりもむしろ脱水(乾燥)による影響の方が大きいことが明らかになった.



 
玄能石(福島県いわき市)
 
合成単結晶イカ石
(最大約3mm)  
   【主要参考文献】

Pauly, H. (1963) 'Ikaite,' a new mineral from Greenland. Arctic, 16, 263-264.

James, L.B., Jhon, A.F., Robert, J.R. (1993) The solubility and stabilization of ikaite (CaCO3・6H2O) from 0 o to 25 oC: Environmental and paleoclimatic implications for thinolite tufa. The Journal of Geology, 101, 21-33.

Jansen, J.H.F., Woendsdregt, C.F., Kooistra, M.J., van der Gaast, S.J. (1987) Ikaite pseudomorphs in the Zaire deep-sea fan: an intermediate between calcite and porous calcite. Geology, 15, 245-248.

Lennie, A.R., Tang, C.C., Thompson, S.P. (2004) The structure and thermal expansion behavior of ikaite, CaCO3・6H2O, from T = 114 to 293 K. Mineralogical Magazine, 68, 135-146.

Tang, C. C., Thompson, S. P., Parker, J. E., Lennie, A. R., Azough, F., Kato, K. (2009) The ikaite-to-vaterite transformation: new evidence from diffraction and imaging. Journal of Applied Crystallography, 42, 225-233.

 
 Copyright © 2004-2020 Atsushi Kyono. All Rights Reserved.    
トップ 研究紹介 メンバー 研究業績 ギャラリー コンタクト English