An experimental study of symmetry lowering of analcime

方沸石の対称性低下に関する実験的研究

菅野 音和,興野 純


Physics and Chemistry of Minerals, 45, 381-390, 2018.

   【はじめに】 方沸石(NaAlSi2O6・H2O)は,代表的なゼオライト鉱物の一つであり,幅広い温度圧力で形成される(Neuhoff et al. 2004).方沸石は,火成岩中に初生鉱物として,または晶洞中に熱水鉱物として,あるいは堆積岩や変質したペグマタイトの二次鉱物として産出することが知られている(Gaines et al. 1997).方沸石の結晶構造は,SiO4四面体とAlO4四面体の3次元フレームワーク構造からなり,4員環,6員環,8員環を持ち,これらの員環の細孔内にNaとH2Oが占有されている.ゼオライトは,このような員環が作る細孔によって,分子ふるい効果や,イオン交換能,触媒能,吸着能などの様々な特性を示し,吸着材や,イオン交換剤,工業触媒,環境触媒などとして幅広く利用されている.方沸石と同じ構造を持つ鉱物は,ポルックス石 (Cs,Na)[AlSi2O6]・nH2O,ワイラケ沸石 Ca[Al2Si4O12]・2H2O,白榴石 K[AlSi2O6],アンモニウム白榴石 (NH4)[AlSi2O6],シャンファ石 Li2Ca3[Be3Si3O12]F2の5種類がある(Baerlocher et al. 2007).方沸石の対称性は,一般的には立方晶であるが,実際には幅広い対称性を示すことが知られており,晶系(空間群)は,立方晶系(Ia3d)から,正方晶系(I41/acd),斜方晶系(Ibca),単斜晶系(I2/a) まで変化する(Ferraris et al. 1972; Mazzi and Galli 1978; Hazen and Finger 1979; Pechar 1988; Anthony et al. 1995). しかし,方沸石の対称性がなぜ変化するのか,なぜ多様なのか,その成因やメカニズムについては,あまりよく理解されていない.そこで本研究では,水熱合成実験と単結晶X線構造解析を用いて,方沸石の対称性変化を詳細に調べた.


【実験方法】 方沸石の単結晶は,出発物質に硫酸アルミニウムAl2(SO4)3とメタケイ酸ナトリウム9水和物Na2SiO3・9H2Oを用いた.これらを方沸石の化学組成比になるように秤量し,テフロン密封型容器に入れ超純水を加え,200℃で24時間加熱した.この水熱合成法によって約100μmサイズの方沸石の単結晶が得られた(図1).得られた単結晶を再び超純水とともに200℃で,24時間,48時間加熱し,その後取り出して,単結晶X線回折測定を行った.単結晶X線回折測定は,CCD検出器を備えたBruker AXS単結晶回折計(APEXII ULTRA)を用いた.方沸石の化学組成は,EPMAとTG-DTA分析を用いてに決定した.


【結果と考察】 単結晶X線回折測定の結果,硫酸アルミニウムとメタケイ酸ナトリウム9水和物から合成された方沸石の単結晶(図1)は,その回折反射はすべて空間群Ia3dの消滅則を満たした.得られた格子定数と化学組成は,これまでに報告されている方沸石のそれらとほぼ同一であった(Gatta et al. 2006).ところが,200℃で24時間超純水中で加熱した方沸石では,00l反射について,l = 2nとなる空間群Ia3dの消滅則を破る反射が観察された.本研究で観察された0010の回折ピークが多重反射である可能性を排除するために,00-10の等価反射を調べ詳細に比較を行った(図2).その結果,二つの回折プロファイルはほぼ同じであり,ロッキングカーブの回折強度もほぼ同等であると判断された.したがって,この結果から,0010反射は多重反射によるものではなく,空間群Ia3dの対称性の低下によって生じたものであると結論付けられた.つまり,200℃の温度で24時間の熱水環境下で,方沸石は,等価原子間での対称性が崩れ,空間群Ia3dから空間群Ibca(斜方晶系)に対称性が低下(相転移)していた.同様の対称性の変化が,48時間の熱水処理した方沸石でも観察された.したがって,熱水によって方沸石の対称性は容易に低下することが確認された.しかし,本研究では結晶構造内での陽イオンの移動はわずかであった.これは,再加熱の際の触媒に超純水を用いて行ったものであり,Na源を加えていないためであると考えられる.本研究の結果は,方沸石の対称性を調べることで,方沸石が初生鉱物として生成されたものか,もしくは温度による二次的作用を受けたものであるかを判別でき,それによってその地域の地質の熱履歴が明らかに出来ることを示唆している.


●参考文献

Gaines RV, Skinner HCW, Foord EE, Mason B, Rosenzweig A (1997) Dana’s new mineralogy: the system of mineralogy of James Dwight Dana and Edward Salisbury Dana. 8th ed., pp 854, Wiley, New York.

Gatta GD, Nestola F, Ballaran TB (2006) Elastic behavior, phase transition, and pressure induced structural evolution of analcime. American Mineralogist, 91, 568-578.

Mazzi F, Galli E (1978) Is each analcime different? American Mineralogist, 63, 448–4606.


 




図1. 方沸石の単結晶





図2. (0010)と(00-10)反射の回折プロファイルとロッキングカーブ







図3. 立方晶系から斜方晶系への対称性変化
     
 Copyright © 2004-2020 Atsushi Kyono. All Rights Reserved.    
トップ 研究紹介 メンバー 研究業績 ギャラリー コンタクト English