![]() X-ray diffraction study of the icosahedral AlCuFe quasicrystal at megabar pressures 正20面体AlCuFe準結晶の100万気圧でのX線回折実験 高木壮大,興野純,三谷彩木,菅野音和,中本有紀,平尾直久 Materials Letters, 161, 13-16, 2015
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【はじめに】 準結晶は,1984年にダニエル・シェヒトマンによってAl-Mn合金の中から初めて発見された.この発見の後,Al-Mn合金だけでなく,様々な化学組成を持つ準結晶が発見され,2011年に「準結晶の発見」の業績に対してノーベル化学賞が与えられた.これまでは,準結晶は厳密にコントロールされた実験室内の条件下でなければ合成することができないというのが常識であった.ところが,2009年にそれまでの常識を打ち破り,初めての天然の準結晶である正二十面体石(icosahedrite),化学組成Al63Cu24Fe13が,CV3炭素質コンドライト隕石(Khatyrka隕石)から発見された(Bindi et al. 2009, Science).そしてごく最近もまた,Khatyrka隕石から二つ目の天然の準結晶,化学組成Al71Ni24Fe5,の発見が報告されている(Bindi et al. 2015).これらの発見は,宇宙空間には我々が未だに知らない事実が存在していることを強く示唆している.準結晶がどのようにして出来たのか?この疑問に対し,Bindiとその共同研究者たちは,正二十面体石が高圧鉱物であるstishovite
中に包有物として見つかったことから,少なくとも1200℃,5GPaの高温高圧を経験していると推察した(Bindi et al. 2012; Hollister
et al. 2014).さらに,Stagno et al. (2014)は,合成準結晶であるi-AlCuFeを用い,高温高圧実験によって1400℃,5GPaの温度圧力下でもその構造が維持されることを示した.準結晶がどのように出来たかを明らかにする場合,その安定領域を決定することは重要である.そこで,本研究では,高圧in-situ
XRD実験によって,準結晶i-AlCuFeの安定領域の上限圧力を調べることを目的に行った. 【実験方法】 純粋な準結晶i-AlCuFeは,粉末Al,Cu,Feをicosahedriteの化学組成になるように秤量し(Al:Cu:Fe=65:20:15),電気炉で合成した.高圧in-situ XRD実験は,SPring-8のBL10XUにおいて,ダイヤモンドアンビルセル高圧装置を用いて圧力範囲は常圧から104GPaまで行った.圧力マーカーには,圧力媒体のKClを用いた. 【結果と考察】 合成実験から,純粋なi-AlCuFe準結晶を得ることに成功した(図1).EPMAから,合成準結晶i-AlCuFeの化学組成は,Al64.8(3)Cu22.3(2)Fe12.9(1)であった.高圧in-situ XRD実験から,i-AlCuFeの特徴的な5つの回折ピークは,圧力増加に伴い高角側にシフトしながら104GPaまで連続的に観察された(図2).このことは,i-AlCuFeの構造は大きく変化することなく,104GPaまで維持し続けていることを示唆している.さらに,5つの回折ピークの面間距離の比較から,i-AlCuFeの構造はきわめて等方的に収縮していくことが明らかになった.準結晶の六次元格子定数a6Dを求め,単位格子体積の圧力依存性を調べた結果,75GPaを境界にP-V圧縮曲線にわずかな不連続を確認した(図3).Birch-Murnaghanの状態方程式は,72GPa以下のP-V圧縮曲線に対して,V0 = 2023(19) Å3,K0 = 131(7) GPa,K’ = 4.0 (固定)で表され,一方,75GPa以上は,Vo = 1913(86) Å3,K0 = 170(40) GPa,K’ = 4.0 (固定)で表された.72GPa以下のi-AlCuFeの体積弾性率K0は,Sadoc et al. (1994)による値(K0 = 139GPa)とほぼ一致した.一方,高圧相で見られる特徴は,(1) XRDパターンに変化が見られない,(2) P-V圧縮曲線に不連続が見られる,(3) 体積弾性率が上昇する,以上の3つである.i-AlCuFe準結晶の高圧相の候補の一つに,近似結晶(approximant crystal)が挙げられる.近似結晶とは,準周期性の対称を維持した結晶性物質である.しかし,近似結晶のXRDパターンは高圧下では準結晶とまったく同じであるため(Joulaud et al. 1999),XRDパターンからは区別することは出来ない.ところが,体積弾性率の値は,近似結晶の方が準結晶よりも明らかに高くなり,したがって,体積弾性率は両者の区別の指標となり得る.本研究で得られた高圧相の体積弾性率は,準結晶よりも明らかに高い値を示し,Joulaud et al. (1999)が求めた近似結晶の体積弾性率(K0 = 175GPa)とほぼ一致している.以上のことから,i-AlCuFeは少なくとも72GPaまでは準結晶性を維持し,その後75GPa以上でわずかに構造を変化させ近似結晶へ相転移したと結論付けられる. ●参考文献 Bindi, L., Steinhardt, P., J., Yao, N., and Lu, P., J. Natural Quasicrystals. Science 2009, 324, 1306-1309 Bindi, L.,Yao,N., Lin, C., Hollister, L., S., Andronicos, C.,L., Distler, V.,V., Eddy, M.,P., Kostin, A., Kryachko, V., MacPherson, G.,J., Steinhardt, W., M., Yudovskaya, M., and Steinhardt, P., J., Natural quasicrystal with decagonal symmetry. Sci. Rep. 2015, 5, 9111 Bindi, L., Eiler, J., M., Guan, Y., Hollister, L., S., MacPherson, G., Steinhardt, P., J., and Yao, N. Evidence for the extraterrestrial origin of a natural quasicrystal. Proc. Natl Acad. Sci. 2012, 109, 1396-1401 Hollister, L., S., Bindi, L., Yao, N., G., Poirier, R., Andronicos, C.,
L., Macpherson, G., J., Lin, C., Distler, V., V., Eddy, M., P., Kostin,
A, Kryachko, V, Steinhardt, W., M., Yudovskaya, M., Eiler, J., M., Guan,
Y., Clarke, J., J., and Steinhardt, P., J. Impact-induced shock and the
formation of natural quasicrystals in the early solar system. Nat. Comms.
2014, 5, 1-8 Stagno, V., Bindi, L., Shibazaki, Y., Tange, Y., Higo, Y., Mao, H.K., Stenhardt,
P., J., and Fei, Y. Icosahedral AlCuFe quasicrystal at high pressure and
temperature and its implications for stability of icosahedrite. Sci. Rep.
2014, 4, 5869 |
![]() 図1. i-AlCuFe準結晶のXRDパターン ![]() 図2. i-AlCuFeの高圧XRDパターン ![]() 図3. P-V圧縮曲線 |
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