生物圏変遷科学分野では、化石の探究をとおして地球の歴史を解明することを大きな目的としています。
地層中に残された化石記録は、その生物が棲息していた当時の環境や時代を推定するのに極めて有効です。地質調査によって得られた層相の情報や化石・岩石試料から、生物の系統・機能形態・古生態・古生物地理(古生物の地理的分布)・生層序(堆積年代の判定)・古環境などを解読することができます。これらの古生物学的・層序学的解析の成果を用いて広域的な対比を行うことで、顕生代における生物の適応・進化様式や地球表層環境の変遷を明らかにすることができるのです。
さて、みなさんは「化石」という言葉を目にしたとき、どのようなものを思い浮かべますか。恐竜やマンモスの大きな骨格、不思議な形をした三葉虫やアンモナイト、あるいはサンゴや貝殻などでしょうか。
化石とは「地層中に残された過去の生物の遺骸やその一部あるいは生活の痕跡」のことです。先に示したような肉眼で観察することのできる「大型化石」以外にも、顕微鏡を用いることで観察できる「微化石」、地層中に堆積構造として残される巣穴や足跡などの「生痕化石」などがあります。
本分野では放散虫・コノドント・有孔虫・軟体動物などの海棲無脊椎動物の化石を中心に、多くの種類の化石を用いて古生物学的・層序学的解析を行っています。
「微化石」とは、観察に顕微鏡を必要とする小さなサイズの化石のことです。放散虫・コノドント・介形虫・珪藻・花粉・胞子・石灰質ナンノプランクトンなどが知られています。微化石は少量の岩石からも多量の試料を得られることから、地層の年代判定や古環境解析に役立ちます。
本分野においては放散虫・コノドント・小型有孔虫を主な研究対象としています。ここでは放散虫とコノドントについて紹介しましょう。
放散虫とはカンブリア紀から現世まで約5億年にわたって生息している海棲の単細胞原生生物です。珪酸塩からなる0.1 – 1.0 mm程度の微小な内骨格(殻)が化石として残されます。放散虫という名前が示すとおり、骨針や棘と呼ばれる放射状の要素と、殻と呼ばれる同心円状の要素の組み合わせによって内骨格が構成されています。遠洋域の大洋底には多くの放散虫殻が堆積し,これが固化することでチャートと呼ばれる珪質岩が形成されます。放散虫は、このような珪質岩をはじめとする遠洋性堆積物の年代指示者として生層序学的解析に有効な生物群なのです。
日本列島の基盤岩の多くは、遠洋性堆積物を含むジュラ紀付加体から構成されています。チャートなどの珪質岩からは大型化石がほとんど産出しないため、これらの基盤岩の年代は不明であり、付近に分布する石灰岩に含有される化石から後期古生代と考えられていました。ところが、放散虫化石を個体分離する方法が確立されたことで生層序学的検討が飛躍的に進展し、その多くが中生代の地層であることが判明したのです。そして、詳細な年代学的検討の成果から、付加体を構成する堆積物の海洋プレート上における初生層序を復元することができました。また、礫岩中の珪質岩礫に含まれる放散虫などの微化石を調べることで、礫の後背地(供給源)である付加体の削剥過程・年代を考察することができます。放散虫は、日本列島の地史を復元するうえで欠かすことのできない重要な情報を提供してくれる化石といえるのです。
コノドントとは後期カンブリア紀から三畳紀末まで棲息していた絶滅動物です。リン酸塩からなる0.2 – 5.0 mm程度の硬組織であるエレメントが化石として残されます。エレメントの形態は角状・複歯状・板状に区別されており、これらのエレメントがいくつか配列することでコノドントの摂食器官を構成していたと考えられています。なお、コノドントの体化石はこれまで僅かしか知られていません。そのため長きにわたって、その正体に関してさまざまな議論が繰り広げられています。現在ではウナギのような形をした動物であることがわかっていますが、分類学的所属については不明なままです。
コノドントは石灰岩・細粒砕屑岩・チャートなどさまざまな海洋性岩石から産出するため、浅海域から遠洋域まで幅広く棲息していたと考えられています。このような産出状況から汎世界的な生層序対比に極めて有効です。特に、顕生代最大の生物大量絶滅事変が生じたペルム紀/三畳紀境界においては、コノドントが絶滅層準を決定する唯一の化石として役立っています。一方で、先に述べたように体化石の産出に乏しいことなどもあり、その生態については謎に包まれています。本分野ではコノドント化石による系統・生層序学的解析を行うとともに、古生態を解明するための研究を行っています。微化石に対して肉眼で十分に観察できるような化石は「大型化石」と呼ばれます。本分野では、フズリナや貨幣石などの大型有孔虫や斧足類・腹足類をはじめとする軟体動物化石による分類学・形態学・生層序学的解析を行っています。このほか、魚類や恐竜の足跡化石、植物化石など多種類の化石を対象に研究を行ってきました。これらの大型化石は、地質調査や微化石に基づく生層序・古環境推定の結果と併せることで、様々な視点からの探究が可能です。
連携大学院である国立科学博物館の地球史解析科学分野においては、中生代のアンモナイト化石や新生代の海棲哺乳類化石を用いた研究を行っています。
これまでに本分野の教員や学生が行ってきた研究については[研究業績]、[構成員紹介]のページに掲載していますので、興味を持っていただけた方はそちらも是非ご覧ください。
生物圏変遷科学分野では、化石や地球史を学び深めたいと考える学生をお待ちしています。みなさんも私たちと一緒に、地球と生命が歩んだ物語の解明に挑んでみませんか。
NEWS