高温低圧型変成岩中の流体包有物の研究

鹿島 崇(1997)


要 旨

 島根県、隠岐島後北東部に分布する隠岐変成岩は、ミグマタイト化作用を受けた泥〜砂質片麻岩、苦鉄質片麻岩、石灰質片麻岩および花崗岩より構成される。泥質片麻岩中のカリ長石および苦鉄質片麻岩中の斜方輝石の存在から、これらは上部角閃岩相〜グラニュライト相の変成作用を受けたと考えられる。隠岐変成岩については、これまでに岩石記載、年代測定、変成温度−圧力の推定等の研究が成されてきたが、流体包有物に関する研究は報告されていない。そこで本研究では、銚子・大久川流域の泥質片麻岩の優白色部と優黒色部に存在する石英中に捕獲された流体包有物の組成を調べ、隠岐変成岩の変成履歴と流体活動との関係について考察を行った。なお、分析にはUSGS型加熱冷却台を用いた。
 観察された流体包有物は、ほとんどが石英の割れ目に沿って存在しており、二次包有物であると思われる。包有物の大きさは、0.5μm〜1.8μmと非常に細粒である。冷却実験による融点測定結果から、H2Oの融点である0℃付近を示し塩濃度が0.12wt.%〜3.8wt.%とほとんどH2Oであると考えられる包有物と、CO2の融点である-56.6℃付近を示すものの2種類が見られた。したがって、同一岩相中にH2O包有物とCO2包有物の両方が存在している。なお優黒色部では、2種類の包有物が共存する部分と、H2O包有物のみ存在する部分が確認された。優白色部にはCO2包有物はほとんど見られなかった。一方、加熱実験による均質化温度測定結果から、H2O包有物では、優白色部と優黒色部で大きな違いはみられず、どちらも約240℃〜280℃であった。優黒色部にのみ見られるCO2包有物は、約10℃〜25℃であった。どちらの流体包有物も気液2相からなり、液相側へと均質化した。
 これらの結果から流体の密度・アイソコアを決定し、H2O包有物とCO2包有物の関係について温度を計算すると、3kbarでH2O包有物は450℃〜540℃、CO2包有物は540 ℃〜860℃であった。つまり過去の変成履歴の研究と比較すると、H2O包有物は後退変成作用末期、CO2包有物はピ−ク〜後退変成作用の温度に相当する。ピ−ク〜後退変成作用でのCO2の起源として、泥質片麻岩中のグラファイトの存在が考えられる。すなわち、岩石中のグラファイト含有量とCO2包有物の量がほぼ比例しているため、酸化環境でのグラファイトの分解によるCO2の供給が考えられる。優白色部にCO2包有物がほとんど見られない理由は、優白色部にはグラファイトが存在しないためである。一方、後退変成作用末期でのH2Oの起源として、変成岩上昇時に形成されたクラックに沿ったH2Oの浸透が考えられる。このH2Oの供給により、隠岐変成岩のほとんどの岩相で、緑泥石や白雲母を形成する加水反応が起こっている。
 以上の結果から、隠岐変成岩はピ−ク〜後退変成作用においてCO2を含む流体が卓越し、後退変成作用末期ではH2Oに富む流体が活動したことが分かる。

(平成8年度・島根大学教育学部卒業研究)

研究の成果

鹿島 崇,角替敏昭 (1997) 隠岐島後,銚子・大久川流域の泥質片麻岩に含まれる流体包有物の研究.1997年地球惑星科学関連学会合同大会(名古屋)講演要旨集 p.475. (Abstract)

鹿島 崇,角替敏昭 (1997) 隠岐島後の泥質ミグマタイトに含まれる流体包有物の研究.島根大学教育学部紀要(自然科学)第31巻,35-43. (Abstract)



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