隠岐島後、布施村南西部に分布する隠岐変成岩類の記載岩石学的研究

安養寺悦子(1996)


要 旨

 島根県隠岐島後北東部にはミグマタイト化作用を受けた泥〜砂質片麻岩および少量の苦鉄質岩・石灰質岩が分布している。これらは、角閃岩相からグラニュライト相に達する高温中〜低圧の変成作用を受けたと考えられている。これまで隠岐変成岩類については西郷町に露出する岩石を中心に、岩石記載、年代測定、変成温度、圧力の推定などがされてきたが、布施村周辺に分布する岩石の研究は乏しい。そこで本研究では、布施村付近(布施〜飯美海岸、布施南谷、卯敷川沿い)の調査を行い、主に泥砂質ミグマタイト、苦鉄質岩、優白色岩を採集した。それらの岩石の薄片を偏光顕微鏡で観察し、西郷に分布するものと比較を行いながら岩相区分を試み、苦鉄質岩中に含まれる鉱物の包有関係、化学組成の比較によりそれらの前後関係を推定し、苦鉄質岩より変成作用の温度履歴を考察した。
 観察の結果、調査地域の岩相を泥砂質ミグマタイト、苦鉄質岩、優白色岩に区分した。泥砂質ミグマタイトは、黒雲母に富み、片麻状構造の顕著なものを泥質片麻岩、やや優白色で片麻状構造がそれほどはっきりしないものを砂質片麻岩とし、それらをざくろ石及び珪線石の有無により、3つのタイプに分類した。苦鉄質岩は斜方輝石の有無によって2つのタイプに分けることができた。優白色岩は、南谷〜卯敷に見られる新期花崗岩体にあたるもの、それ以外の貫入岩と思われるもの、ミグマタイトの石英、長石質の濃集した優白色部と思われるものに分けた。
 本調査地域の苦鉄質岩中に含まれる鉱物の前後関係より、隠岐の苦鉄質岩は累進変成作用時に褐色ホルンブレンドを形成し、ピークで単斜輝石、斜方輝石を形成し、後退変成作用時に無色・緑色ホルンブレンド、カミングトン閃石、アクチノ閃石を生じる反応をたどったと考えられる。
 また、本調査地域に分布する火山角礫岩とした泥砂質ミグマタイトで珪線石等を含むものは、西郷に見られるものと組織的に類似している別の地域に分布していた泥質片麻岩の一部である。一方、本調査地域に露頭として出現する泥砂質ミグマタイトは珪線石等を含まない。したがって、本調査地域の泥砂質ミグマタイトはざくろ石とカリ長石が反応に関与せず、後退変成作用時にざくろ石を分解する反応を受けなかったといえる。よって西郷、布施とも泥砂質ミグマタイト、苦鉄質岩の、鉱物組合せの違いは原岩の組成に起因するものが大きいと考えられる。
 したがって隠岐変成岩類は西郷、布施とも類似した変成履歴をたどり、布施南谷〜卯敷に見られる貫入優白色岩の接触変成作用による影響は少なかったと考えられる。

(平成7年度・島根大学教育学部卒業研究)

研究の成果

角替敏昭,浜田耕一,藤原奈都子,安養寺悦子 (1995) 隠岐島後の泥質ミグマタイトに記録された変成履歴.平成7年度三鉱学会(東京)講演要旨集 p.160. (Abstract)

Tsunogae, T., Hamada, K., Fujihara, N., and Anyoji, E. (1996) Metamorphism and crustal anatexis of high-T/low-P pelitic gneiss, Oki-Dogo Island, southwest Japan. 30th International Geological Congress (Beijing), Abstracts Volume, 2, p.612. (Abstract)



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