火成岩分野の研究テーマ

火成岩研究分野では、国内外の先カンブリア紀から現在に至るさまざまな火成岩(火山岩類、花崗岩類)、火山噴出物、熱水変質物、および変火成岩の岩石学的、岩石化学的研究を実施しています。主な研究テ−マは、以下の通りです。

1. 島弧マグマの起源や成因に関する岩石学的、岩石化学的研究

この研究では、特に代表的な島弧である日本列島の第四紀火山岩類について、それぞれの地質学的研究を元に、岩石学的研究や、各種元素、Sr-Nd同位体組成などを用いた岩石化学的研究を行っています。

(1) 具体例の一つとしては、各火山の噴出物の層序に基づいた火山体直下のマグマ溜りの組成構造の推定や、そのマグマの起源や形成過程についての研究(阿蘇火山、姶良カルデラ形成の火山、伊豆大島、新島などで過去に実施)が挙げられます。この研究では、マグマ溜りの組成構造だけでなく、各時代のマグマの組成分析などから、マグマ供給系の時代変化を推定することができます。また、その噴出形態の詳細な観察、研究(火砕流など)も行っています。これらの研究から、今後の噴出するマグマの組成などを推測することができます。

文科省:次世代火山研究・人材育成総合プロジェクトに参加(H28〜)

(2) また、もう一つの研究例は、日本の島弧火山のある時期の噴出物に普遍的に含まれる灰長石巨晶(アノ−サイトメガクリスト)とそれに伴うMgに富んだかんらん石大型結晶などの鉱物学的、同位体岩石学的研究です。これらの結晶は、各火山噴出物の中では異質結晶ですが、日本列島の多くの火山から産出するという一般性もあります。これらの巨晶については、今までに筑波大学グル−プ(鉱物学、岩石学分野)の研究はありますが、まだその成因や生成条件については解明されてない部分が多くあります。今後は、鉱物学的、同位体岩石学的研究はもとより、各種分析方法を用いて、巨晶の成因や生成条件の解明を目指す予定です。現在は伊豆弧を始め、中部日本、および九州―琉球弧の火山に含まれる灰長石巨晶の研究を実施しています。

(3) 日本の伊豆弧周辺域に分布する火山岩類の、岩石学的、地球化学的研究です。海洋性島弧である伊豆弧は、玄武岩を主体としますが、デイサイトー流紋岩などの珪長質火山岩類も伴っています。また、小規模ですが、アルカリ岩(アルカリ玄武岩、ベイサナイトなど)も分布しています。これらの岩石を形成したマグマの起源や、成因、生成機構などの解明のために、野外観察、基礎的なデータの分析、元素、同位体分析などを用いた研究を行っています。

 
左:1986年伊豆大島火山噴火の溶岩流.
右:伊豆大島火山、岡田溶岩中の灰長石巨晶(1cm大の結晶).

 
左:阿蘇火山火砕流(Aso-4)と包有する本質レンズ
右:伊豆半島、南崎のアルカリ岩(ベイサナイト)の露頭

 
左:伊豆、新島の流紋岩質火砕流と火砕サージ
右:富士山と宝永火口(1707):興味のある火山

2.原生代-新生代花崗岩類の同位体岩石学的研究

現在の大陸や島弧などに広く分布する花崗岩類は、花崗岩質マグマ形成当時の地殻−マントルの構造やテクトニクスを推定する上で、非常に重要な鍵を与えてくれます。この研究では、国内外のさまざまな地域の花崗岩類の地質学的研究に加え、鉱物組成や、全岩化学組成(主要元素と微量元素)、およびSrやNd同位体組成(87Sr/86Sr, 143Nd/144Nd)を基に、マグマの起源、マグマの形成過程、マグマの成因、さらにはテクトニック場や地殻−マントル構造の推定などを行っています。これらの花崗岩類の時空分布を基に、日本や世界各地域の大陸地殻や島弧などの発達史の構築を試みています。最近の主な研究地域は、日本国内(飛騨帯、隠岐帯、秩父周辺、筑波、北関東など)、韓国、モンゴル、トルコ共和国、中国などで、時代も原生代から新生代中新世までさまざまです。


北米シエラネバダ山地の中生代花崗岩類

3.Rb-Sr法、Sm-Nd法による火成岩、変成岩の絶対年代の測定

この研究は、放射性同位体である各種岩石や鉱物に含まれる放射性同位体の87Rbや147Smがそれぞれ87Srや143Ndに時間の関数で変化することを利用した年代測定法を用いた研究で、この測定法は古い時代の岩石や鉱物(隕石なども含む)に対し古くから行われ、かつ信頼性の高い測定法です。これらの年代測定や上記の同位体比測定には、表面電離型固体質量分析装置が使われます。筑波大学では、Finigan MAT262を利用して年代測定などを実施しています。火成岩や変成岩などの結晶質岩石には、年代測定が必須項目の一つでもあり、岩石や鉱物の形成時期は、火成岩・変成岩岩石学の重要研究課題でもあります。今までに実施した主な研究は、東南極の原生代と古生代花崗岩類、南アフリカの32億年前の変成岩、モンゴルの中生代花崗岩、韓国の20億年前の片麻状花崗岩、筑波山の花崗岩、飛騨帯のジュラ紀花崗岩、古生代変成岩などです。最近では、これらの方法で、堆積岩の年代測定も試みています。

  
韓国,原生代嶺南地塊(約20億年前)の露頭写真(左)と片麻状花崗岩の写真(右)

4.その他の研究

上記火成岩類の研究のほかに、石灰岩や微化石のSr同位体組成から堆積岩の年代決定を行う研究も実施しています。また、K−T境界など各種時代境界の元素、同位体プロファイルの作成などをもとに、時代境界での地球表層環境の変化についての研究も実施しています。


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