2006年10月9日北朝鮮の核実験と推定されるイベントの地震波解析(改訂2)

2006年10月9日北朝鮮にて、核実験が強行された模様です。ここでは、FDSNとGSNの地震観測ネットで観測された地震波形をIRIS-dmcからダウンロードし、核実験と推定されるイベントの震源モデルを構築しました。解析に耐えうる観測データが少なかったため、等方成分以外の成分が小さくなるような拘束条件をかけたモーメントテンソルインバージョンを行いました。等方成分は、体積変化を示す成分で、爆発の規模と相関関係にあります。ノイズの影響を極力小さくするために、0.6 〜 3 Hz のバンドパスフィルターをかけました。また、USGSのフェーズデータを参考にして、P波を検出しました。

坑道で実験が行われたことを考慮して、震源の深さを1.5kmに設定しました。この値は実際の実験が行われた深さより深い値であると考えられます。しかし、数値計算上これ以上浅く震源を設定して、安定な解を求めるのはやや困難です。震源は、地表ごく近傍と解釈して下さい。

(改訂1)では、波形が良くあう観測点、BILL(ロシア), AAK(キルギスタン), COLA(アラスカ)のみで解析を行いました。この時、P波を特定できたが、波形が合わなく、最終的な結果に反映されなかった観測点が2点【CHTO(タイ), BRVK(カザフスタン) 】存在しました。この原因として2つの可能性が考えられます。

可能性1:CHTOやBRVKでは、ノイズに比べてシグナルが小さいために上手く波形を説明できない。
可能性2:BILL, AAK, COLAでP波と想定しているフェイズが、震源から放射された波ではない。

原因を特定するために、CHTO(タイ), BRVK(カザフスタン) の観測点を重みを落として、波形解析に使用してみました。その結果、CHTOやBRVKでは、大きな振幅のP波が到達しているはずなのに、実際の地震波形記録には計測されていないことが分かりました。この結果は、(改訂1)では、BILL, AAK, COLAの観測点の特異なノイズが原因となり、等方成分が大きく見積もられたことを意味します。CHTOの観測点のノイズレベルを考えると、実験の規模が先の解析結果の1/50程度の0.5ktでも十分に地震波記録は説明できます。

小さなイベントの解析の難しさを痛感しました。先の解析にて、皆様を惑わす様な結果を公開してしまいました。記して謝罪します。(筑波大学大学院 八木勇治

追記

なぜ機関によってマグニチュードが異なるのか質問を受けたので、それに対する回答です。ここで、実体波マグニチュード(mb )がどのように決まるのか考えてみましょう。mb は、

   mb = log(A/T ) + Q(h,delta )

となります。ここで、A はP波の最大振幅、T はその周期、h は震源の深さ、delta は震央からの角距離です。一観測点ごとに、mb は求まります。震央距離30°以内でかつ震源が浅いとき、Q(h,delta )は複雑に変化します(Lay and Wallace, Modern Global Seismology, p382を参照) 。これは速度構造の影響で、波線が屈曲し、レンズの焦点効果を生み、局地的に大きな地震動が引き起こされることがあるからです。この効果は、地域によって異なりますので、近いところで観測されたmb の値には注意する必要があります。つまり、近いところで観測すれば、mb がばらつくのはあたり前のことです。
 このような影響を避けるためには、震央距離30°以上の観測点を使えば良いことになります。しかし、今回のイベントの場合、規模が小さいために、震央距離30°以上の観測点では、正確な振幅を見積もることが困難です。つまり、正確に規模を把握するのが困難でした。

 自然地震では、震央距離30°以上の観測点で決めたmb も、ばらつきます。これは、mb を決めるときに、P波の放射パターンを考慮していないためです。これに対して、爆発型のイベントの場合、P波の放射パターンは方向によらないので、震央距離30°以上の観測点で決めたmb は、観測点によってそれほどばらつかないことになります。


モーメントテンソル解、震源時間関数、理論波形(赤線)と観測波形(黒線)の比較, 震央と解析に使用した観測点分布(解析にはUSGSが決定した震央を使用しました)


余談:間違えに気が付いたきっかけは、ロシアの発表してる爆発の規模と、他の国が発表している爆発の規模が大きく異なるという記事です。私の解析で、重要なデータはキルギスタンとロシアの広帯域地震計記録でした。私の遠地実体波解析では、他のデータと比較して振幅があからさまに小さなデータは解析から取り除く処理をしています。今回のケースのように、観測点数が少なく、かつ、特異なノイズが存在する場合には危険な処理であったと言えます。

更新:2006/10/13 14:01