筑波大学 http://www.tsukuba.ac.jp/

地球進化科学Webニュース Vol. 3

地球変動科学分野の八木勇治准教授が日本地震学会若手学術奨励賞を受賞


地球変動科学分野の八木准教授が、日本地震学会若手学術奨励賞を受賞しました。受賞対象研究、受賞理由は以下の通りです。授賞式は、日本地球惑星科学連合2009年大会時に開催予定の地震学会通常総会(5月17日(日))にて行われる予定です。


受賞対象研究:震源過程と非地震性すべり:震源インバージョン手法の構築、マルチデータ解析、相補的関係の解明

受賞理由
候補者は,地震学データ・測地学データを用いて,地震の震源過程のインバージョンを数々の地震について行っており,信頼性の高い震源モデルを地震直後に世界に発信する仕事に留まらず,手法の開発・結果の解釈などにおいても地震学上重要な研究を行っている.また震源過程解析結果を含む、地震学の研究成果を社会に広く広報する活動において長年にわたって大きな貢献をしている.

候補者の貢献について特筆すべき点は以下である.

1)数多くの地震の信頼性の高い震源過程のインバージョン解析を行っていること.かつ,それらの多くが,解析手法においても,結果の解釈においても単なるルーチン的な解析に留まっておらず,地震学上重要な結果をもたらしている.

例えば,日向灘地域で地震の発生した1996年のGPSデータの誤差成分を軽減した上で,GPS時系列データを用いて震源インバージョンを行い,非常にゆっくりとした滑り分布を定量的に求めた.この結果,地震性滑りの領域とゆっくりとした滑りを起こす領域が相補的であることなどを見いだした.また,同地域で発生した1968年の日向灘地震について,非定常なゆっくりとした滑りが,この地震のアスペリティを縁取るように発生していることを見いだした.

2)最近の共分散成分を取り入れた候補者の研究は,信頼性の高い震源過程を得るためのツールとして高く評価される.

これまで,震源インバージョンの際に,誤差は互いに独立でありガウス型ノイズとして扱われてきた.従って共分散行列の非対角項をゼロとして扱われることが多かった.しかし最近の高精度・高密度・高サンプリングデータを用いる際には,データの誤差よりもモデル化の誤差が大きくなってしまい,そのため,この誤差が互いに相関をもつようになる.候補者は,このような場合に,共分散行列の非対角成分を無視すると,インバージョン問題が不安定になることを示し,共分散行列非対角成分を考慮したインバージョン手法を構築し成功を収めた.

3)大地震発生直後の早い時点に,地震波形による震源インバージョンを行って,信頼性の高い速報解を世界に発信しており,日本の地震学に対しても,世界へのアピールという点でも貢献は大である.

以上の理由から,候補者は日本地震学会若手奨励賞を受賞するに値すると判断する.